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ＩＲのことをもう一回書こうと思う。前段で書いたのは機関投資家ＩＲのことである。
四半期ごとにお呼びがかかり、置屋、いや証券会社の要請で芸者よろしく旦那、
いやプロの投資家の元へはせ参じる。
ＶＶはまだ川越芸者の身。
新橋、神楽坂の芸者の道は遠い。
機関投資家という存在に対して、一般投資家という存在がいる。

彼らにも会社四季報、ＨＰによる事業業績の開示、
あるいは四半期ごとのプレスリリースによるデスクロージャーなど、
その気になれば会社の業績を把握する機会は平等に与えられている。

「持ち株に応じた株主平等の原則」は一応守られているかにみえる。
しかし、金を張った馬の馬体をパドックで見たいと思う了見は
二百円馬券の人も十万円張った人も同じではないだろうか。

現状ではこのパドックは丸の内界隈に集中していて、
皇居を睥睨するかのようなミーティングルームで馬体を独り占めできるのである。
しかもこの馬体は騎手に引かれて黙ってパドックを廻るだけではない。
喋るのである。インサイダーを漏らすことは絶対しないが、
業績のいいときは顔色がよく、声の張りも艶やかで饒舌に冗談を繰り出す。

業績の悪いときはその反対と誠に分かり易い地方競馬アラブ種である。
僕はかねがね、このことを疑問に思っていた。

一般投資家はハンデを背負っていて隅に追いやられている。
一般投資家からの問い合わせの電話には丁寧に応えるようにと、
厳命はしているものの、それほど多くはない。

証券業協会では個人投資家ＩＲを最低年二回の実施を奨励しているものの、
罰則規定はない。ＶＶでは証券会社の斡旋があれば万障繰り合わせて応えるようにしている。
たくさんの前で喋るのはいつも苦手ではあるが、大事な発行体の義務だと思っている。

やるときは証券会社の会議室を使わしてもらっているが
ギャラリーはことのほか多い。いつも１００人くらい。
集まったというより証券会社の必死の努力によって集められたという表現が適当。

平均年齢は６５歳くらい。言葉使いにも気を使う。
「皆様、ただいまご紹介いただきましたＶＶの菊地でございます。
皆様のような個人投資家のかたがたに手前どもの事業内容を
ご説明するのはとても、意義のあることと存じます。
本日はお集まりいただきありがとうございます。

また、この機会を作っていただいた○○証券さんには厚く御礼を申し上げます。
さて、これから弊社の事業内容をご説明申し上げますが、
その前に申し上げたいことがあります。今日は横文字を一切使わないで
皆様にご説明をしたいと存じます。

うまくいくかどうかは保証のかぎりではありませんが、挑戦してみます」


いつも人と違ったことをやりたいと思う僕の性癖には自分ながらあきれてしまう。
新機軸を打ち出さないと気が済まないのだ。
新機軸のアイデァは突然湧いてくることが多く、
このときもよせばいいのに最初の挨拶で思いついたものだった。





■プロフィール■

菊地敬一ヴィレッジヴァンガード創業者。
1948年北海道生まれ。賞罰共になし。原付免許、普通自動車免許、珠算検定６級 保持。犯歴前科共になし。
大学卒業後、書店勤めを経て、39歳で独立。名古屋で、遊べる本屋『ヴィレッジヴァンガード』を創業。独自のセレクトとPOP、ディスプレイで「変な本屋or雑貨屋」としての地位を確立し,396店舗を展開するに至る。






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