▲カナディアン号に乗り込む乗客ら


「ウェルカム?アボード（乗車くださいまして、ありがとうございます）」。

午後１０時。車掌さんのアナウンスが流れた。

カナダ大陸横断列車「カナディアン号」は、

トロントのユニオン駅をがったん、ごっとん、とゆっくり動き出した。

西海岸バンクーバーまで４泊５日かけて４４６６キロを走る。

ロシアのシベリア鉄道（約９０００キロ）に次ぎ、世界２位の長距離旅客列車である。

湖沼地帯を走り、地平線まで広がるプレーリー（大平原）を駆け抜け、

峻（しゅん）険なロッキー山脈を越える―。

抑え切れない興奮を共有したくて、

天井がガラス張りになった展望車「パークカー」へ行ってみた。

未知なる旅の始まりを祝い、シャンパンパーティーが開かれていた。

グラスを手に、見知らぬ者同士が「チアーズ」と乾杯。

効率重視の時代に、

わざわざノスタルジックな汽車の旅に出る物好きばかりだから、すぐに打ち解けた。

女性アテンダント、コリーさんは勧め上手だ。

▲女性スタッフ（ＶＩＡ鉄道提供）

「サラミもどう？お腹がすいてるんでしょ、カッモーン。

顔を見れば分かるわよ。シャンパンもお代わりをどうぞ」。

勧められるまま杯を重ね、ほろ酔い機嫌である。

街の灯よ、しばし、お別れだ。

東の空に昇りかけた月が、われわれを見送ってくれた。


（続く）

提供：時事ドットコム